Monamily in Paris (...in London/in Tokyo/in New York/etc...)

派遣留学でパリの街に恋し、東京でアメリカ軍人の夫と結婚し、日系企業の駐在員としてロンドンで単身赴任中の私の純ジャパ奮闘記

【フランス生活】パリで一番の眺望が見渡せる部屋に閉じ込められた話~前編~

私はパリのルーフトップが大好きだ。登る屋根が違えば見える景色も全く違う。そんなの当たり前だが、東京では殆ど気にしたことがない。だが、欧州では展望台や丘があればほぼ必ず登ってシャッターを切っていた。高台から眺める伝統的な建築物の屋根たちは私の心を鷲掴みにした。その中でも、特にパリのオスマン建築の屋根とエッフェル塔等のモニュメント、朝日や夕陽や雪景色のコラボレーションと共に季節の移ろいを感じるのが最高に心地良かった。

 
 
 
 
 
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上記のようにカワイイモニュメントをペアリングするのも好きだった。

(話が脱線するため割愛するが、日本に帰国してからもスカイツリーと雷門をペアリングして撮影している。ご興味があれば、私のもう1つのInstagramアカウント@monamilyintokyoをご参照いただければ幸い)

 

しかし、パリでは自由に登れる展望台やルーフトップが少なく、そもそも商業テナントは原則地上階(日本で言う1階)であり、上層階は全て居住用。つまり、眺望良好のスポットの殆どが居住用のアパルトマンとなってしまう。
もう少し長くパリに住んでいたら、パリのルーフトップ写真家のコミュニティにでも入り色々な住宅の屋上から写真を撮る選択肢もあったが、私はそこまでの時間的余裕はなかったため、基本的に居住用以外のスポットを片っ端から攻めて撮影していた。ルーフトップバー、モンマルトル等の小高い丘、デパートの屋上、有料展望台、観覧車など、様々な角度からのパリを楽しんでいた。

そんな私も数回、パリ市内のAirbnbを借りて滞在し、その窓やテラスから眺望を楽しんだことがある。写真撮影だけでなく、違ったアパルトマンや地区での暮らしが楽しめるし、同じ場所に滞在し続けるより数倍パリを満喫できる。友達を招待して食事を楽しむこともあった。

 

その中でも、パリで迎える最後の年末年始に借りたAirbnbは極上だった。こんな美しい眺望を臨める住宅は見たことがないし、今後も見ることはないと思う。勿論、好みは人それぞれなので、あくまでも私の感性に基づく評価に過ぎないが、ルーフトップに興味のない友人やフランス人の友人さえ「これはさすがにすごすぎる」と驚いていたのは事実。

 
 
 
 
 
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パリ市内の美しいモニュメントのほぼすべてを一望することができるだけでなく、朝日と夕陽が両方楽しめる南向きのテラスで朝食をとることができるのだから贅沢すぎる。
正直、金銭的な出費は相当のものだったが、それだけの価値がある買い物だったと胸を張って言える。眺望だけなら、間違いなく5つ星高級ホテルなんかよりも百倍優れている。「家は一生賃貸で良い」派の私でさえ、生まれて初めて「こんな家だったら欲しい」と思った。

 

この物件のホストは、年末年始に自宅を離れるためにその間だけ自宅をAirbnbとして貸し出していた。チェックイン当日はホストと会うこともなく、物件の近くの飲食店で鍵を受け取った。物件に到着すると、フランス式7階まで小さなエレベータ上がり、いよいよその美しい部屋にたどり着いた。

間取りは1LDK。内観も十分満足できるものだったが、テラス(バルコニー)からの眺望ほど特徴的ではないので掲載は割愛する。

ベッドルームがバルコニーに繋がっており、眺望を楽しむには一度ベッドルームに入る必要がある。

とにかく絶景。気持ちが高揚してとにかく写真を撮りまくったが、その日は友達が遊びに来ることになっていたので、一通り撮影が完了した後は部屋を片付けるなど色々支度を始めた。ケーキを買って、友達と夕陽を見ながら食べて、楽しい時間を過ごす――――想像しただけでワクワクが止まらない。


部屋の片づけが済むと、直ちにベッドルームに入りバルコニーへの扉を開けた。絶景。天気は良かったが、風も強かった。


「バタン!」

 

大きな物音と共に、リビングとベッドルームを繋ぐドアが閉まった。これだけ風が強ければ、風圧でドアが閉まること自体に驚きはなく、しばらくミラーレス一眼で窓からの景色を写真に撮り続けた。この時の私は未だこの後起こる恐怖など知る由もなかった―――――わずか5分後に起こる非常事態を。

 

一通り写真を撮り終え、窓の外のエッフェル塔を眺めながらバルコニーのテーブルでコーヒーでも飲みながら会社に報告するレポートの作成でもしようかと思い、パソコンを取りにリビングに戻ろうとした時、何かがおかしいことに気づいた。

そう、ドアがおかしい。

 

ドアノブがないのだ。

 

ふと足元を見下ろすと、ドアノブの部品たちが無防備に転がっていた。未だかつて経験したことのない状況に、一体これが何を意味するのか、20秒くらい本当に理解できなかった。

取っ手の取れるティファールのCMが頭の中に流れた。これは取っ手の取れるドアなのだろうか。さすがティファールの国フランス。趣深い。

 

と、いつまでもつまらない冗談を言っている場合ではないことに気づかないほど馬鹿ではなかった。ドアノブがなければドアは開かないのは火を見るよりも明らかだ。

 

そう、この部屋から外へ出ることができなくなった。

皮肉なことに、パリで最も美しい景色が臨める部屋に、軟禁されてしまった。

 

ドアノブはプラスねじ2つで固定されるタイプだったが、ネジもネジ穴もとにかく頼りない外形であった。ドライバーらしきものは見当たらないので、指先を駆使して何とか直そうと試みるが、うまくいかない。
「よし、Airbnbのホストに連絡をとろう」―――― そう思った直後にもう1つの衝撃の事実を思い知らされた。

携帯電話もパソコンもリビングにある。

 

頭の中が真っ白になった。笑えない。誰とも連絡がとれない。もうすぐ2021年が終わろうとしているのに、通信手段のない世界に佇んでいる。目の前には泣けるくらい青々とした空と贅沢すぎるパリの象徴的なモニュメントとオスマン建築の屋根たちが織りなすパノラマが無邪気に微笑んでいる。軟禁された人間には贅沢すぎる景色で、笑うしかない。

年始のチェックアウトまで、何件か友人が訪問する予定が入っていたが、彼らがインターホンを押しても私が玄関まで向かうことはできない。彼らが連絡してきても、私はLINEもWhatsAppも確認することができない。このまま軟禁状態で、数日間飲まず食わずのまま、この豪華な部屋で独り新年を迎えるのだろうか。助けを呼ぶ方法は他にないだろうか。バルコニーから通行人に向かって叫べば誰かが手を差し伸べてくれるだろうか。Google翻訳という強い相棒を失った今、フランス語が話せない人間がどうやってこの状況を説明して助けを呼べば良いのだろうか。火事や強盗などの緊急事態であれば言葉なんて気にせず英語でも日本語でも叫べば良いのだろうけど、そこまで深刻でもないような気がして、あまり目立つ行動をとる気が引けた。

 

「冷静になれ、落ち着いて考えろ」――――自分に言い聞かせる。今までの人生でもハプニングは幾度となくあったはずだ。広島在住時、友人の結婚式のために東京に帰ろうと早朝に自家用車で空港に向かう途中、雪道でスリップして車が動かなくなったことがあった。幸い、親切な通行人が車を押すのを手伝ってくれたのと、大雪で飛行機が2時間位遅れていたことで、何とか結婚式には間に合ったが、空港の駐車場から搭乗口までは冗談抜きに走れメロス状態だった。東京に到着すると、2cm程度の積雪で人々はキャーキャー騒いでいた。40cmの積雪の中走り抜けてたどり着いた自分が少し誇らしかった。


閑話休題。色々思いめぐらせたあと、結局はドアを直さないとドアは開かないのだからドアを直すことに集中すべしという現実的な方針を固めた。ドアの構造を冷静に観察し、どのような状態になればドアを開けることができるかを冷静に考えた。

ネジ穴に手指や爪を先程よりも繊細にくねらせ、反対の手ではドアノブと本体を繋ぐ棒が動かないように細心の注意を払った。何度も失敗したが、それでも根気強く繰り返した。ノーベル賞を目指す発明家にでもなった気分だ。

 

ドアノブよ、頼む!ドアと繋がってくれ――――。


~~後半へ続く~~