Monamily in Paris (...in London/in Tokyo/in New York/etc...)

派遣留学でパリの街に恋し、東京でアメリカ軍人の夫と結婚し、日系企業の駐在員としてロンドンで単身赴任中の私の純ジャパ奮闘記

【フランス生活】パリで一番の眺望が見渡せる部屋に閉じ込められた話~後編~

※前編を未だご覧になられていない方は以下↓のリンクよりお読みください。

monamilyinparis.hatenablog.jp

 

~ 以下、前回のつづき ~

 

窓の外に広がるパリの大パノラマに背を向け、私は真剣にドアノブのネジ穴と向き合った。

集中力が限界を超えそうになった時、空回りしていた取っ手が少し重くなったのを感じた。人差し指の爪がボロボロになった右手で、ゆっくりとドアノブを下に引く。

 

動いた!!!

 

どのくらいの時間、私は軟禁されていたのか全く思い出せない。時空の曲げられたような異世界では、1秒も永遠のように感じた。
特徴のない小綺麗なリビングルームも、この時は天国のように見えた。

外に出られた。これで無事に年末年始を迎えられる――――。

ドアのネジ穴は相変わらず緩かったので、再びドアノブが外れる恐れがあると判断し、ドアは開けたまま固定することとした。そして、部屋を移動するときは携帯電話を肌身離さず持ち歩くことを誓った。私は所謂スマホ依存症とはかけ離れたタイプの人間だと自負しているが、危機管理の観点ではスマホは手放さない方が良いと実感した。現代社会では、他者と連絡が取れなくなると、完全に外界と遮断されてしまうのだ。

久々にスマホとパソコンが手元に返ってくると、私は小一時間の間に起きたと思われる浮世離れした出来事をとにかく友人に話したい気分になり、メッセージを送った。同時に、ドアノブが壊れたことをAirbnbのホストに話すべきかを相談した。

壊したと咎められて弁償しろと言われるのか、むしろ閉じ込められたと騒げば宿泊料を割引してくれるのか、あまりにシュールすぎる出来事だったので、はっきり言って全く見当がつかなかった。Yahoo!知恵袋で「Airbnbに泊まったらドアノブが取れて部屋から出られなくなりました。何とか出られましたが、ホストには正直に言うべきでしょうか?」なんて質問は一度も見たことがない。日本でそんな物件があったら見てみたい。

 

色々検討した結果、事実は事実として伝えるべきだということになり、私はホストにメッセージを送信した。

「窓を開けたら風が吹いて、寝室のドアがバタンと閉まって、ドアノブが外れて部屋から出られなくなった。何とかドアを直して部屋から出られたから良かったが、依然ネジ穴が緩いようなので、再発防止のためにもドアを直した方が良い」――――― こんな感じの文章だったと思う。

 

ホストはフランス人の若い白人男性で、夫婦と幼い子供でこの豪邸に住んでいたようだった。宿泊前の事前やり取りでも親切に感じ良く対応してくれたので、とても良いホストだとは感じていた。

果たして、私のドアノブに関するメッセージを読んだ彼は怒るだろうか、驚いて謝るだろうか――――― 反応が全く予測できず、返信が届くまで気持ちが落ち着かなかった。

 

ほんの5分程度で、私の動悸は止まった。ホストから返信が届いたのだ。おそるおそるAirbnbのウェブサイトにログインし、確認したメッセージの内容は予想の斜め上だった。

 

「ボンジュール!それは大変だったね。実は僕も以前2回ほど閉じ込められたことがあってさ、それからドライバーを寝室に置くことにしたんだ。説明しそびれてたけど、ドライバーは壁際の棚の上に置いてあるから、もしまた閉じ込められたら使うと良いよ!では、良い年末を(^^)/」

 

えっ・・・・

 

まさかの・・・・

 

閉じ込められること前提!!Σ( ̄□ ̄|||)

しかも本人は2回も閉じ込められてるΣ(・ω・ノ)ノ!

 

「ドライバーを寝室に置くことにしたんだ」じゃなくてさ・・・・

 

ドアを直せよ!!!!!Σ(゚Д゚;

こんな家に住んでるんだから金持ってんだろ!(@ ̄□ ̄@;)!!

 

東京では脱出ゲームというアトラクションが流行っていたが、この物件は脱出ゲーム付物件だったということだろうか。それならキチンと「脱出ゲーム有」と物件情報に記載すべきではないだろうか。

とりあえず笑うしかなかった。あまりに面白すぎる。

再発防止のためにドアを直すのではなく、再び壊れることを前提にドライバーを部屋に置くなんて聞いたことがない。

 
 
 
 
 
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数十分後、友人が訪れ、改めてドライバーを使ってしっかりとドアを直してくれた。このドタバタ喜劇のような1日に疲れ果てた私は夕焼けに染まるエッフェル塔凱旋門を見つめながら、心から友人に感謝した。

 

2022年を迎える瞬間も、友人とこの豪華絢爛なテラスで過ごした。コロナ禍でオフィシャルな年越しイベントは中止となっていたため、窓の外を盛り上げたのはヤンキーたちの非合法打ち上げ花火たちだった(フランスでは一般人の花火は禁止されているため、街中で花火をしている人がいたら、それは全て違法なヤンキー花火である)。

沢山の人々がアパルトマンの窓を開け、「あけましておめでとう!」と叫んでいる。大音量で音楽を流している部屋もあった。

日本では、クリスマスを友人と過ごし正月は家族で過ごすのが伝統だが、ヨーロッパは真逆で、クリスマスを家族で過ごし正月を友人と過ごす。良い歳した大人たちまで夜更かししてカウントダウンを楽しんでいるのは、何となく見ていて面白い。

 
 
 
 
 
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人類の長い歴史の中で、2021年は特殊すぎる年だったかもしれない。

だが、私にとっては物凄くエキサイティングな1年間だった。

この先の人生の中で、パリで一番の眺望が見渡せる部屋に閉じ込められることなんてあるだろうか。勿論、あってほしくない。

だが、ドアも壊れていないのに自ら一歩も部屋から出ようとしない日本人の自粛生活と比べたら、ドアが壊れても必死で外に出ようと悪戦苦闘するフランス人の生活は、あまりにも見ていて気持ちの良いものだった。

 

コロナ禍に海外赴任したことを不幸だと言う人もいるかもしれないが、コロナ禍だからこそパリに来られて本当に良かったと、今でも、心から、そう思っている。

 

 
 
 
 
 
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